珍・観察日記

オーフランオフ(彼の母国語で「あ〜あ」と深い溜め息を意味する)。



最近夫がよく家にいる。
そして夜も帰ってくるようになった。何かがおかしい、不自然。
いや、これがたぶん普通なんだろうけど。
今までは幸か不幸か、すれ違いが多かったが、
必然的に時間を長く共にすると喧嘩も増える訳で。
そして見たくない部分とかも見えてしまう訳で。
知ってたし今更そんなとこ見てどうこう思うとか無いにしろ、
見たくないものは見たくないわけで。
私はただ単純に楽しく過ごして楽しく食って寝たい訳で。
人生とはそう甘く温く柔らかではないようで。



今日とある場所で仕事後に友人と珈琲を楽しみ、
滑らかな語らいを楽しんでるところに夫が電話をかけてきた。
夫はいつも通り、そんな時間にそんな所に私が存在する事自体に怒る。想定の範囲内
というわけで、もともと友人の終電の時間が迫っていたので、お開きにして
夫の待つ待ち合わせ場所へと小走りに歩く。
私を待っていた夫の隣には久しぶりの義兄がいて、そしたらなんと頭がモヒカンだったので、
おいそれはウド鈴木だよ、と思ったが少し失礼かと思ったので、
その頭の上に乗っかってるタワシを撫で撫でだけして夫と車に乗り込み自宅へ帰る。
途中、店を数軒ひやかしつつ自宅へ戻るのだが、
家に入ると急に部屋の中とか風呂場の状態が気になって、
夫が風呂に入ってる間に洗濯掃除などを手早くこなす。
夫が風呂から上がると「腹が減った」と王様のようにおっしゃるので、
それじゃあ私が風呂に入ってる間にせめて君はスパゲッティーだけでも茹でておいて、
と言付けをして私は風呂へ入る。
私は風呂に入りながら風呂掃除と便所掃除をもこなす。
風呂に入って「さぁ飯でも作るか」と思ったら、
ヤツは裕に7食分はあるであろうと思われた麺を全て鍋にぶちこんでいて、
しかもベッドで眠りこけてるときた。
当然、浴室掃除して出てきたくらいの時間が経過していたので、
水はすべて蒸発し、麺は膨大な量に膨らんで、
ただでさえアルデンテでも7食分あったのがスゴイ事になってて相当頭に来た。
頭に来たので飯を作る事をボイコットした。




ある時、夫が神妙な面持ちで、
私に訊きたい事があるとおっしゃるので、
「なんだい?」と真面目に夫の顔を正面から見据えてその質問とやらに心の準備した。


「あの、亀に乗ったお侍さんは有名な人なのかい?」
とおっしゃるもんで、はて、私は一体どこの有名人かと一瞬首を傾げかけたが、
次の瞬間には、真面目に不思議がっていた夫には失礼かと思ったが、
それが浦島太郎だったという事が判明して私はどうしても笑いを堪える事が出来なかった。
外国人にとったらちょんまげ頭の着物姿は全て侍と映るようだ。
おまけにその着物を着たちょんまげ頭は何故か亀に乗っている。
そうだよ、君が不思議がるのも当然だよな、と彼の疑問も分からなくも無いが、
とりあえず説明する前に一笑いさせてください、と夫に申し出る。
まだ事の答えを知らない自尊心の高い夫は、何か自分が間違った事や可笑しな事を言ったのか、
バツの悪そうな顔をしていたが、どうしても笑いを堪え切れませんでした。ごめんなさい。
でもいいと思うよ。その調子だ、我が夫よ。



今朝、色々な事が積み重なって、あまりに夫が私を馬鹿にするもんで、
我慢強い私もいよいよ頭に来てしまって、
「あなたには私に対して敬う、っていう気持ちがない。」
とガツンと抵抗した。
そうしたら思いの外、夫の気分を損ねてしまったようで結構凄い事になってしまった。
あからさまに私に罵倒したり、嫌な顔をするとかはしないのが普段からの彼の性格で、
ずっとぶつぶつぶつ「俺にはつまり敬いの心がないんだな」と呟いている。
「俺にお前に対する敬いや尊敬の心がなかったら、お前と一分たりとも時間は共にできないし、
ましてや結婚などするわけがない。いっそのことお前にはほんとに敬いの無いような行動を取らなければ。」
などと一人で自問自答しているので、
ああ、こんな面倒臭いことになるんだらいっそのこと言わなければよかった、
と心から後悔していると彼が、
「俺には敬いの心がないんだよな?」と念を押してくるので、
「少なくとも時々そう思わせるように会話を私にけしかけてくる事がある。」と申すと、
なお機嫌を損ねたようで、また一人ぶつぶつ呟いている。
もうどうにでもなれ、と私も半ば無視で煙草に火を点け煙っていると、
「俺は嘘つきで正直じゃないんだよな?」
と突然とんちんかんな事をおっしゃりだした。
ここまで一切嘘つきの「う」の字も出てこなかった言葉がいきなり出てきたので、
「いや、嘘つきで正直じゃないなんてそんな言葉一字足りとも言ってません。」
と事実を述べたところ、
「え?つい今し方俺に嘘つきで正直じゃない、と言ったじゃないか。」
と意味の分からない事を言い続けるので、
「いいえ、私はそんなこと一言も言っていません。」
とこれまた真実を述べると、夫が首を傾げだした。
「俺はじゃあつい今まで、何に対して怒っていたのだ?」
とおっしゃりだしたので私は、夫の脳みそがワープしているんじゃないかと少々心配になったが、
私も嘘はついていないので、話を蒸し返すのもなんですし、
そのままごり押しで、さぁあなたは何の夢見ていたの?的な感じでその場を無理矢理押し流す。
大丈夫かなぁこの人。
私が言ったのは「敬いの気持ちがない」ってことなのに、
どこでどう「嘘つきで正直じゃない」って事にすり変わったのかが私にも分からない。
まぁ終わりよければ全てよし、って事で事無きを得た。
頑張れ、夫よ。