意外な偶然


私の右手のひらには、
子供の頃から直径1ミリ程度の、小さな膨らみがある。
ちょうど小指と薬指の間、感情線と知能線の間にある。


最近はほとんどその存在を忘れていたが、
学生時分には、つまらない授業中いつもその右手の膨らみを
眺めながら、どうしてこんなものがあるのだろうと想像を膨らませていた。
きっと医学的に云ったら、
脂肪成分が何かの拍子に手の表面へと出てきた
とかそんなもんなんだろうけど、
中学生の頃なんかは特にそれが気になって、
爪切りでその物体を取り去るべく、ぱちっと切ったりなんぞしていた。
しかしその膨らみは懲りずに
数日後には何食わぬ顔で再び定位置に存在している。
切っても切れない縁であった。


今朝、なにげなく夫の手のひらを眺めていた。
仕事して帰って来た後の彼の手は汚い。
でもその指紋にまで入り込んだ汚れが、
私が居ない間にも彼が生きている証のような気がして、
私はそれを見るのが結構好きだった。


だから今朝も久しぶりに彼の右手を見ていた。
彼の手のひらに、見覚えのある小さな膨らみがあった。
小指と薬指の間、感情線と知能線の間。
なんとも奇遇な事に全く同じ所に彼の手にも、私の手にあるものがあった。
思わず声が出る。
私の手と見比べて確認して、彼にもこの発見を伝えた。
彼も思わず声を出す。
彼もいつからか子供の頃から気付いたらそれがあって、
私と同じように、無理矢理手でもぎ取ってみたり、
爪切りで切ってみたりした事があったらしいが、
数日後には再び復元しているのだとか。
なんという偶然か。


私達には結構こういった有りえない偶然がある。
例えば数年前から使っている彼のメールアドレスは、
私の苗字であったりする。
しかも私の苗字は彼の母国語には無い発音である。


でも私が彼の運命の人であるなんて事は、
これっぽっちも思わない。
逆にこういった偶然のように私達は偶然出会って偶然結婚してしまったのだ、
とさえ思う。


だからなんだっていう話ではないが。