料理という薬


最近、常に彼の機嫌が悪かった。
彼の仕事であったり友人関係であったり、
私と彼との間ではどうしようもならないところで
沢山の問題を抱えているようであった。
私はもちろん何をする事も出来ない。
私の助けを借りようとするような人でもない。


朝方帰ってきては大声でその怒りを撒き散らしたり、
時には私に八つ当たりさえするような日々であった。


でも私はそれでもいいと思っていた。
彼が私に八つ当たってそれで彼が発散できるのであれば、
それでいいと思っていた。
人間誰しも一番身近な人に当たって、時にストレス発散することもあれば、
後々それを後悔したりして人間関係を築いていく。
いくら私を傷付けてくれたっていいよ、
私はそれを受け入れるよ、
そう思っていた。


今朝も例によって機嫌が悪かった。
例によって口論の末、彼が私を傷付ける。
でも堪えた。
彼が私を傷付けたのではなく、
彼の痛みを私が引き受けたのだと思えば痛くもなかった。


私はなるべく彼と笑って過ごしたいのだと常日頃思っている。
だから彼に特別な料理を振舞う事にした。
今まで作った事のない料理を作ると彼は無条件に喜ぶ。
全ては彼の喜ぶ顔のため。


買い物へ出る前に、
彼に手紙を書いた。



 

  貴方を幸せにしたい。
  私の大切な人だから幸せになって欲しい。
  でも私には何も出来ない。
  貴方を幸せにするような器用な事も言えない。
  最近貴方は色々な事に怒っている。
  私はそれをただ聞いているだけ。
  聞く事以外何も出来ないから。
 

  だから私は貴方に料理を作るよ。
  貴方の喜ぶ顔が見たいから。
  ただそれだけの為に。

 
  貴方は時々、私を信用していないみたいな事を言うけど
  私がどれほど貴方を想っているか
  私がどれほど貴方を大切に思っているか
  この事についてはこれっぽっちも私は間違いは起こさない
  貴方に誠実に生きてきた
  これから先も誠実に生きていきます
  だから私を信じて。

短い手紙を三分で書いた。


それから買い物がてら、一緒に家を出て
彼は仕事へ行った。


それから数時間経つが、
ほぼ一時間おきに電話が鳴る。
声が聞きたかっただとか、何してるか気になったとか、
そして、ここ数日間君の事を悲しませてばかりいたよ、本当にすまなかったと。


私は君のそういう所が好きなんだ。
私の思いを無視する事をしない。
直接言わなくても、私の思いが無駄になった事なんて一度もない。


だから私はこれからも君に誠実に生きていくよ。
間違いは起こさない。
何かを信じて生きていくってのも悪くはないもんだ。