彼がモデルになった日


以前にも言及した、
彼がモデルになるかもしれない話は今日、現実となった。
待ち合わせ場所にカメラマンが現れて、
それから彼と私、車に乗せられてスタジオまで運ばれる。
スタジオのセッティングに10分少々待たされて撮影スタート。


ついさっきまで、遅れるから起きてと体を揺する私に、
眠たくてベットでウーウー唸っていた彼が、
色んな照明やらなにやらに囲まれて、
青バックにキメ顔でポーズをとっている。
その様子に思わず下を向いて笑いを堪える事しか出来なかった。
凝視すると噴き出しそうになる私を見て、
彼も噴き出しそうになってしまっては、
仕事にならないのであまり撮影の様子をじっと見ないようにした。


しかし夫の晴れ舞台。
その二度とないであろうこのせっかくの機会を、
この目にしっかりと焼き付けておこうではないか。
カメラマン曰く、ポーズも顔も決まっているので
仕事が速いと、喜んでくれたようだった。
ナルシストの気があって、たまに家でポーズをキメキメ、
自分一人の写真を撮ってくれと迫ってくる彼にとっては自然と日常的訓練がなされていて
言わば天職であるかもしれなかった。


この写真は近々、ある業界誌の表紙に使われるらしい。
世間に向けて販売される事はないらしいのだが、
何にせよ、棚から牡丹餅である。
1時間足らずの撮影で、ウン万円の報酬を得た。
私も通訳料として、彼の善意で千円を頂いた。
千円・・・ウーン・・・
しかしこの臨時収入も我が家の数ある請求書へと消える。
残念ながら。
生きていく、ってそういうもんだよね。
せっかくだから全部とは言わないまでも、それで少しは彼に贅沢させたかったんだけど・・・


ナルシストの気があって、撮影中はそれなりに楽しんでいたのに、
帰りの車の中では、自分の見かけを売りにすることに嫌悪を感じ始めていた
気難しい彼であった。
いいじゃん、いい思い出になったんだから。