初体験

彼に借りた自転車は、10年以上の年代モノで、
ブレーキは一つしかなく、
嫌がらせかと思うくらいペダルが重かった。
途中でこんな自転車捨ててタクシーで帰ってやろうかと思うくらいだった。
おかげで競輪選手のトレーニング並みのエネルギー消費量であったと思う。
あんなに軽快にこげない自転車なんて自転車の意味を為していない。


夜中の二時に、しかもあまりのオンボロ自転車で、
キーキーと自転車は奇声を上げながら走っていた。
そんな状況下、当然と言えば当然なのだが、
巡回中のお巡りさんに職務質問で行く手を阻まれる事、合計三回。
その度に、
いや、だから、電車がなくなったので友人に自転車を借りて自宅まで帰るところです。
何回説明しても明らかに疑いの目。


別にこんな自転車わざわざ盗んだりしませんから。
どうせ盗むんだったらもうちょっといい自転車盗みますよ。
そんなに疑うんだったらこの自転車あげます貴方に。
そう出てきそうな言葉をごっくりと飲み込みながら、
笑顔を絶やさずに深夜のお巡りさんから職務質問


しかも自宅の最寄駅までよりによって私は今日自分の自転車で来ていたので、
最寄駅からは、左手に私の自転車、右手に彼のオンボロ自転車を携え、
二台同時に自宅まで運ぶという暴挙に出た。
ああ、これでまたオマワリとかに会ったら即職務質問だ。
とか思いながら別に私は悪い事してないんだから質問したかったらどうぞしてください。
と半ばヤケになりながら両手で自転車を引きながら、
宇多田ヒカルを聴きながら、自宅へと向かっていた。
ああ、来た来た来た。
しかも今回はオマワリ二人組。
目を合わさないようにしていたが、
明らかに50メートル前方にいるオマワリ二人が私だけを見つめて突進してくる。
大人しく道の傍らに自転車二台を停めた。


だから、自宅から自転車に乗って駅まで行って、
電車で友人宅に行ったんですけど、終電なくなったので友人に自転車を借りて
ここまでこいできて、駅で自分の自転車を取って、
横着なのでこのまま二台同時に自宅へ運んでしまおう、と今こういう状態あります。


妙に正義感を目に燃え滾らせたオマワリが私を疑いの目で睨む。
私も別に後ろめたい事ないですから、睨み返しました。
まだ何か?
向こうもオマワリ二人で目で示し合わせたように、
「じゃ、まぁいいです。すみませんでした。気をつけて帰るように。」
という言葉と共にちゃーぁっと去っていった。
職務質問されたのは生まれてこの方初めて。
かなり面白かった自分的に。
まぁ普通に考えたら夜更けの三時に自転車二台両手で引いてる女子を見つけたら、
何事かと事情を聞くでしょう。
これも彼らの務めであるからには、善良な市民は協力しないといけませんよね。


そうして家に着いた頃には疲労困憊だった。
肉体的にも精神的にも。
余計な事は考えるまい、思い出すまい。
変な感傷には浸るまい、と帰ってすぐに床につく。