私の切ない気持ち


浪人時代に付き合っていた人と会った。
最後に会ったのは夫と付き合い始める以前だったから、かなり長い事会っていなかった。
夜、夫が仕事に出かけて、その後彼と会った。
電車で三駅隣りで待ち合わせた。


彼と別れたのはちょうど五年前の初夏だったと記憶する。
それからも定期的に会ってはお互いの近況を報告しあう、
別れてからも付き合っている当時の距離感を全く崩すことなく、
私達は不思議な関係を保ち続けていた。
今日会っても結婚の話をするつもりはなかった。
なんとなく今の関係が少しでも変化してしまう事を危惧したからだ。
会って少し夜の街を二人でふらついて、ご飯を食べた。
おいしい餃子とか食べた。
それから隣のファミレスに入ってまったりした。
眠い眠いと呟き続ける彼に、少し苛ついた。
なんとなく、まったりすぎて、いつもと変わらなさすぎて、
なんとなく、二人の関係に突破口を見出したくて、
目の覚めるような話をしてあげる、というばっちりな前フリの後に、
結婚した事を告げた。
もちろん彼は目を見開いた。
私の意図した通り、眠気からはばっちり解放されたようだった。
終電とかもうどうでもよかった。
五年前も、家族にバレないように夜中に家をこっそり抜け出しては
こうして二人でファミレスで何の話をするでもなく、
ただただ二人で横に並んで座っていた。
その事を思い出していた。
ファミレスを出て、近くにある彼の家まで
二人でひとつの自転車をひきながら、歩いた。


もしも俺が今日、眠い眠いとか言わなかったら結婚の話しないつもりだった?
その質問に私は、
だって私はもう結婚してしまったんだもの。
もう今更あなたに結婚したのとか言っても言わなくても仕方ないんだよ。仕方ないんだよ。
そう、もう結婚してしまったんだ私は。
そういう事は早く言ってくれよ、こっちにだって色々と準備ってものが・・・


そう言って彼は黙った。
家に着いた。
彼も今は社会人になって立派な家に住んでいた。
大学時代の一人暮らしの部屋のひどかった事を思い出して少し笑った。
部屋に入って変わっていなかったのは部屋の汚さ。
相変わらずだね。
そう彼に聞こえないように呟いた。
彼の布団の隣にもう一組布団を敷いてもらった。


再び眠気に襲われていた彼は、
この前俺達が最後に会ったときにはもう旦那とは付き合ってたの?
そう私に訊いた。
あの時はまだ旦那とは出会ってもいなかったよ。
その答えの後に少し沈黙があって、彼の寝息が聞こえた。
帰るね。
そう呟いて彼の自転車を借りて自宅まで30分間自転車をこぎ続けた。
私にも彼に対してこういう切ない気持ちが残っていたんだ、と気付いた。
家に着くまでには私はいつもの私に戻っていた。