私の嗅覚

彼が今日家に携帯を忘れっていったんですよ。
彼の習慣として、家を出る瞬間に一本煙草に火をつけて、
駅までの道のりを、良い事ではないんですが、
歩き煙草で駅へ向かうんです。
今彼が吸っている煙草がその名も「BLACK DEVIL」という、
見かけは真っ黒で、匂いも甘い強烈な匂いを放つ煙草を吸しているんですが、
家を出ていった二分くらい後に携帯を忘れていった事に気付いたんです。
それで私は寝巻きでボサ頭のまま、なりふり構わず追いかけていったんですがね。
まぁうちから駅までのルートは簡単で、一つしかありえないんですがね、
走って追いかけてるときに、
「ん?これはヤツの匂いだ!」
的に私は匂いを嗅ぎ当てて、
もしも彼の行く先を知らなかったとしても、
私は間違いなく彼の後を正確についていって、
確実に彼を探し当てることが出来てましたね。
彼に携帯を無事渡し終えて、同じ路を辿って家に向かってる時でさえ、
まだ彼の匂いは残っていましたから。


これは私の嗅覚がいいんですか?
いや、そんな筈は有りません。
だって私は風邪をひいていて、鼻が鼻として機能していないくらいなんですから。
ということはこの煙草が物凄いんですね。
立つ鳥後を濁さず、といいますが、
悪魔は匂いを残してくんでしょうね。
自分の存在を顕示するかのように。


しかし残り香というものは切ないものです。
匂いで彼を思っても、
彼そのものはいないのですから。
やはり去って行く時は、
匂いも髪の毛一本すらも残していって欲しくないですね。
残された者はそれを見て、彼が居たという証拠と、
彼がもう居ないという事実を抱えるしか有りませんから。
寂しいものですね。