ソウル散策


午前8時半。へんにリアルな夢に魘され目覚める。

現実か夢か判らなかった。

目覚めると隣で彼は起きていた。

一緒に生活し始めて一ヶ月半、初めて私より早く目覚めた日であった。

夢の内容は、彼に6人半の子供が居ると暴露されるというものであった。

半というのは一人今生まれそうだという意。

夢の中のシチュエーションが今泊まっているホテルの部屋であった為、

非常にリアルでマジヘコみ。夢でよかった。

お風呂にゆったり入り、10時半頃ホテルを出る。

ホテルから出て、通りの屋台で甘いおやきみたいなものを頬張り、

地下鉄に乗って何処かへ行こうと彼を説得して、南大門市場へ向かう。

切符は一枚900ウォン(約90円)。

彼を引率しながら二つ隣のソウル駅で乗り換え、一つ目で降りる。

電車に乗るところから乗り換えも全て、

あまりにもスムーズに行き過ぎたので、

韓国来たの初めてじゃないでしょ、何回目?

と疑惑の目にさらされる。

だって漢字書いてあるし、日本とあまりシステム変わらないし、

楽勝だったんだもん。私を信じて。

南大門市場はごちゃごちゃ所狭しと品物が陳列され、

道の舗装具合や坂の感じが、トルコのシルケジの裏辺りの問屋街に似ていた。

適当にぐるぐる歩いて、彼は靴を一足買って、私はキムチを三つ買う。

値切り交渉はさすがお国柄が出ますね。

日本人の私達には出来ないよ。

靴は30000ウォンが27000ウォンに。

キムチは30000ウォンを25000ウォンまでに値切ったが、

23000ウォンしか金を出さないという荒技であっさりその値段になった。

あとは、木のコップとチマチョゴリの絵の描いてあるカードを二枚買った。

この時点で12時半。

早起きは素敵なことだね。

さぁホテルに戻ろう、という彼を再び説得して弘大に行く。

二回電車を乗り換え、全部で8駅程の移動であったかと。

弘大入口駅で降りて、目の前にあったケンタッキーで昼食。

すでに韓国で美味しい韓国料理にありつくことを諦めた私。

何も言わずに彼についていく。

食後、コーヒーと煙草を欲したので、向かいにあったカフェへ。

一番奥にあった素敵なソファ席に座る。

アメリカンとカプチーノで8000ウォン(約八百円)。

日本とあまり変わらない価格設定である。

素敵なソファ席で愛を語ってみる。

新しい年、新しい恋人、新しい仕事に新しい生活を始めよう。

君の脳と君の心を愛してる、君は全然飽きさせない人だ、と。

写真を幾つか撮る。

店員さんに写真を撮ってもらう、可愛い人だった。

あまりにも気に入ったので、店員さんとも撮ってもらう。

彼と店員さん、少々近付きすぎの感があったけど?

僕が他の女の人を見たりしても気にしないで、

それは文字通りただ見ているだけで、僕は君だけをみているからね、と。

上手く逃げたもんだ。

しばらくまったりして、お姉さんに挨拶して店を後にする。

裏道に入ってみると、人通りは少ないものの、

日本でいう裏原宿のようであった。

彼も気に入った様子。公園のベンチで暫く人間観察してみる。

そこでの彼の言葉は、いつもそう笑顔で幸せでいてくれ、と。

君が私を幸せにしてくれるんだよ、いつも隣に居て欲しいと答えた。

午後3時過ぎ、そろそろホテルに戻ろう、と駅に向かう。

切符を買う際に駅員にキレられる。

だって2枚分のお金出してるんだからわかるでしょうに!

普通に憤った。

何が起こったのか問う彼に説明すると、そいつを殴ってやる、

とか怖い事言うので冷静になった。

電車に乗ると、三歳くらいの男の子が角に座っている。

その子の言動・行動でまわりの大人たちが笑っているやんちゃ坊主だった。

私と彼を見るとやんちゃ坊主の動きが止まった。

彼が手を差し伸べると手を離さない。

彼の顔を凝視したままずっと手を繋いだままだ。

やんちゃ坊主が母親の気を引くため大声で叫ぶと、彼が坊主に向かって

「そうだ、自由に生きろ!」と力強く言う。

そうか、そういうことかと妙に納得した。

乗り換えて私達の滞在するホテルの最寄駅に到着。

一度地上に出るが、出口を間違えて再び地下道へ。

地下道にあった靴屋へ入る。今度は私の買い物だ。

彼が私に選んでくれる靴が尽くなんというかおばさんくさくて、

これなんかどう?と訊かれる度に、

・・・いいんじゃない。と小声で言うしかなかった。

私がこれがかわいい、と指差す靴には、

子供っぽいからダメ、女らしくなれ、とこれまた尽く非難される。

趣味が合いませぬ。

彼が選んだものの中で一番マシなものをひとつ選びこれにしようと

思ったところで、私の心をぐっと掴んだ一つの靴を見つけこっそり試着。

一足千円足らずだし、二つ買っちゃダメ?と一応控えめに尋ねてみるが、

「駄目。」ときっぱり。わかりました。

その子供の方が気に入ってるならそっち買っていいよ、と言われ、

ここまでああだこうだ付き合ってくれたことに少々申し訳ない気持ちを

抱きつつも、そっちを買う。履くのは私だもんね。

今まで履いていた靴を袋に入れ、新しい靴で外を闊歩する。

通りの屋台で焼き栗とみかんを買い、

セブンイレブンで再びオレンジジュースとお菓子を買い込む。

そして初日からホテルの前の屋台で売ってるクリムトのパズルを見る度、

あの絵が好きだ、とあまりに何度も私が言うので、

何故そこまで好きなの?との質問に、

「あの絵を見ると幸せな気持ちになるの。」と一言答えると、

一旦ホテルまで入ったのに引き返して、

「君が幸せな気持ちになるというなら買う他ない。」と屋台へ。

40000ウォン(約四千円)とふっかけられ、持金が14000(約千四百円)

しかないことをおじさんに言うと、それでいいと手に持っていた

お金を奪い取られ、無愛想に品物を渡される。

ふっかけられたものの私はクリムトの絵を手に入れたことに満足していた。



部屋に戻り、二人だけのお茶会を開き、

女の子二人で話すように話に花を咲かせた。

そこでぽつりと彼が私に言った。

誰にも知られないで二人で結婚しようか、と。

我が耳を疑った。

彼が私と一緒になることは無い、と二人で暮らし始めた当初から

私は覚悟していたからだ。

現実的に話を進めていくうちに、再びいつもと同じ問題にぶち当たる。

やはり彼は私を赦すことが出来ないのだ。それは変わらない。

彼自身も自分の矛盾に迷っているのは明らかだった。

私は彼が私と生涯を共にしたいと思っているというその事実だけで

今は充分だった。

わざわざ異国まで来てまた同じように涙したくない。

しかし彼との話が進めば進むほど悲しかった。

ほらほら、そんな悲しい顔をしないで。

でも悲しまずには居られない。

こっちへおいでと、彼の腕の中に抱かれながら、

買ったばかりのクリムトの絵を眺めた。

この女の人もこんなに幸せな顔をしているのはこの一瞬だけだったかもしれない。

そんな事を思いながら彼に分からないように涙した。

私のこの想いを解かってくれる日は来るのだろうか。

私のこの想いが実る日は来るのだろうか。

私は君を失いたくない。



そんな韓国三日目。