いざ出発


韓国出発の日。

仕事を辞め、久々の優雅な日々。旅行へ行くことへした。

まさか彼と韓国に行く事になろうとは二ヶ月前の私に考え得た事であろうか。

韓国という文化も顔も似た国への好奇心、久しぶりに乗る飛行機、

そして彼と二人で国外へ旅に出るというイベント。

どう落ち着こうとしても期待に胸が膨らまずには居られなかった。

13:42新宿発成田エクスプレス成田空港行きのチケットは前日に入手した。

スーツケースに二人分の洋服を詰め、午後12時半、彼と家を出る。

駅までの道のり、二人でほくそ笑んだ。

新宿から成田空港駅まで所要70分。

5号車の喫煙席、一人三千三百円と少々であったかと。

新宿のマクドナルドで昼食を買い込み、サクラヤでカメラのフィルムを買って

成田エクスプレスに乗り込む。

空港までの時間、マックを頬張り、煙草をそれぞれ一本ずつ吸って夢現の世界。

あっという間に成田に着く。

コンピューターシステムダウンのトラブルにやや巻き込まれつつも、

17時ちょうど発の大韓航空に無事チェックインする。

空港内で息苦しいと喚く彼の手を引いて、喫煙所へ向かう。

ここで一服、リンゴジュースと共に落ち着いてくれよ彼。

セキュリティーチェックと出国審査をなんなくすり抜け、

免税店にて煙草を4カートン購入。

免税店のお姉さんに尋ねたところ、韓国へは1人1カートンしか持ち込めないが、

緩めなので鞄の中に忍ばせておけば分からないでしょう、との

アドバイスを受ける。有り難う姉さん。

それから香水を購入しそうであった彼に、今手持ちの現金をここで使うのは、

これから何が起こるか分からない旅の前に危険な行為だと忠告を加え、

なんとかそれを阻止し、無事そう仕向けたところで再び買ったばかりの

煙草を試吸しに喫煙エリアへ向かう。

喫煙者は暇を見つけると喫煙をすることをしか頭に思い浮かばないんですね。

とそうこうゆったりして、それぞれ最後のトイレを済ませてる間に、

大韓航空にご搭乗の○○サマ・・・」とアナウンスされ、

そんな初体験を恥ずかしく感じながらも、二人で走って飛行機に文字通り駆け込む。

もはや自分が韓国人か日本人なのか区別がつかないくらい東アジアな匂い。

そこここにハングルが飛び交っている。

17時ちょうどに離陸予定だったが、30分ほど遅れて飛び立つ。

韓国の仁川空港までは二時間。時差はない。

意外と短いフライトに拍子抜けだが長い時間飛行機に乗っているよりずっと良い。

彼は人生で飛行機に乗るのはこれで三回目だと言っている。

私は、はて、何回乗ったかなんて思い出せないし数え切れない。

何にせよ何回乗ったところでやはり空港ってのは緊張するし、

離陸の直前のこの巨大な機体の限界を思わせる程の猛ダッシュと、

陸を離れた瞬間てのは何回経験したところでエキサイトする。

安々と平和な日本で暮らしている私にとって最も死に近付く瞬間でもあるし、

同時に人間が生み出した科学技術の賜物に感動する瞬間でもある。

今回ばかりは隣に好きな人がいるし、もしも墜落炎上なんてことになったところで

それはそれ、一緒に死ねるのであればまぁいいか、とへんに安心した。

兎にも角にも無事離陸。

スチュワーデスさんに機内で渡された出入国カードに自分の名前を記入している所で、

彼に漢字を嘲笑われたので、漢字の素晴らしさを絵を交えて説明する。

基本的な漢字は象徴文字であるということ。

そして部首を組み合わせて漢字は成り立っているということ。

部首一つ一つに意味があり、仮に読むことができなくても、

読み方そしてその意味を推測することができるということ。

特に「休」という漢字の意味を説明した時は、感動しているように見受けられた。

そうこうしている内に、機内食

鶏肉にワカメご飯、人参、ブロッコリー、パンにバター、ゼリーであった。

味付けは韓国な感じでまぁまぁ。元々期待などしていない。

期待などしていないけど機内での機内食、楽しみは楽しみである。

食後はスマトラ島沖地震の話から、日本の歴史の話、それから政治の話に熱くなった。

基本的に彼らは何かに対して憎しみを持っているというか、

彼らの歴史からいって当然なのかもしれないが、

私たちは何か諦めにも近いものを持っていて、現状を乱したくないというか、

私一人が何かを思ったところで、言ったところで、何かが変わるなんて

思っても居ないし、そしてそれを期待もしていないし、

そこから受け入れなければ仕方がないというか、無関心というか。

しかし彼らは内なるところで憎しみだとか、反発だとか、

負から生まれる並々ならぬエネルギーを、情熱を持っている事をすごく感じた。

もっと私にボキャブラリーがあれば、きちんと対話できたであろうが、

一方的に聞く方へ徹した。



そうこうするうちにソウルに到着。

飛行機を降りて入国審査。荷物を受け取って日本円で2万円をウォンに両替する。

195000ウォンとなって手元に返ってきた。

出口を出たところですぐに同じフリープランツアーの日本人二組と、ガイドさんに

迎え入れられる。

空港を出てミニバスまでの短い距離の間に、韓国の寒さが身に凍みた。

寒い!!

出た瞬間にその寒さにリアクションしたのは私と彼だけ。

しかも同じ言葉。私も外国人化しているらしい。

日本人勢は無言で耐えている。

ミニバスに乗り込んでそれぞれのホテルまでの道のり約1時間少々。

ガイドさんの話を聞きながら私達は眠りにつく。

それでもソウル市内の様相が気になって時々目を覚まして窓から見る風景は、

ハングルが飛び交っているものの、日本とそう大差はないというか、

違和感を全くといっていいほど感じない。

ここもやはり東アジアの小国であって大国であった。

ホテルに着いて最終日は朝6時に迎えに来ます、とのガイドさんの言葉に

少々ヘコみながらもチェックイン。605号室である。

「何かソウルの事で、不安や質問などありますか?」と聞かれ、

正直ガイドブックを持っているだけで全く知識が無さ過ぎて、

質問すら思い浮かばなくて言葉に詰まり、

「ありません。本も有るしそれで・・・」

との私の言葉に少々オバさまは気を悪くしたようであったが気にすることは無い。

彼が居れば怖いモノ無しですから、恋は盲目斬り、ということで部屋へ。

意外と部屋は広く、海外で安宿を転々とした私にとって悪くは無いと思ったが、

彼は古い、汚い、とご不満のようだ。安ツアーなんだから我が儘言わないで・・・。

一服して夜飯を調達しに外へ繰り出す。

寒い!!

大通りには軽食からアクセサリーまで、ひたすら屋台が並んでる。

それを見ているだけでかなり楽しかった。

しかし日本でも食事には大きな制限を余儀なくされている彼、

何が入ってるかわからない韓国の料理に手は出せない、と目に付いたバーガーキングへ。

ハンバーガーショップは万国共通ですね。

韓国での食生活に少々不安を抱きつつも、寒空の下、腕を組んで小走りでホテルに戻る。

テレビを見ながら本日二度目のハンバーガーを頬張り早めに就寝。

そんな一日目。